風評老害

自分の姿は自分では見えない。
自分をよく知る他人に聞くか、鏡でも見るかしかない。

日本は一度外に出てみると、見えなかったものが見えてくる。
香港の街を歩きながら、ずっと考えていたのはそのことだ。
街のいたる所に、遠目からもそれとわかる「いかにも」な大陸からの観光客。ブランドショップの前に行列をなし、大枚をはたいて両手にあふれんばかりの紙袋に替えていく。
家賃が倍近くなった、と嘆く香港在住の友人たち。不動産相場が急騰したのは、中国人たちが高級マンションを一括現金買いしまくっていることも一因である。

大震災がなければ、このうちの何割かは日本に来ていたのだろう。

中国人だけではない。欧米や中東からの投資家もだ。
それは日本や日本人にとってよかったのか、悪かったのか。今ここで判断するのは難しいけれど、香港は引き続きスクラップ&ビルドを繰り返し、発展しているように見える。

人々がのびのびして、街全体が明るい。
あらためて「眩しい」と思った。

それだけ日本や日本人が萎縮しているということなのだろう。


▲ 香港、カントンロードにあるルイ・ヴィトンに並ぶ中国人観光客

経済成長を促す三大要素は「ヒト」「カネ」「生産性」である。
人口は減り、デフレは止まらない。頼みは生産性である。
果たして、生産性の指標は「ひとりあたり購買力平価」で見れる。IMF調査による2010年の資料では、日本は33,805米ドルで世界第25位。(ちなみに香港は45,736米ドルで第7位)93年度は2位。2000年で確か5位だったはず。凋落ぶりも甚だしい。しかもこの数字は震災前。いまはさらに下がっていることだろう。
「生産性」もダメ。経済成長の三大要素、全滅である。

清潔で治安も良く、食事は美味しくて礼儀正しい国民性。そのあまりの居心地のよさに忘れてしまいそうになるが、日本はいま危急存亡の危機に面している。

大震災の起こる少し前、米国格付け会社により日本国債の格下げの可能性が発表された。これを受け菅総理は「こういうことは疎いので」と世界に恥をさらし、与謝野経済財政政策担当大臣は「消費税増税を促された」と、念願の増税へのシナリオをいっそう早めた。

増税などだれも促してなどいない。
その格付け会社のプレスリリースによれば、2000年に行なわれた財政再建、2004年の社会保障改革を上回る改革、これに加えて成長率向上策が実現できれば「格上げ」もあり得るとしている。格付け会社ごときにとやかく言われるのはあまり好きではないが、事実、いまは40兆円ほどしかない年間歳入も、2007年には51兆円あった。この時代、小泉政権は何をしたか?金融緩和と歳出カットである。増税ではない。

加えて大震災、さらに原発事故。
国の財政破綻のXデーはさらに近づいた。とし、再建には増税するしかないと、与謝野氏はさらにはりきる。震災後、遅々として進まず後手に回る施策ばかりなのに、唯一スピーディに対策が進んでいったのが「増税策」である。「増税されてもしかたないな」と国民に思わせるほど危機感を煽り、やおら進めるというシナリオである。

歳入が減り、歳出が増えれば、自分たちの給料や権益が減る。
これを恐れた役人(官僚)は、歳入の源泉を確保するためにと増税することばかり考える。消費税もまずは10%から。やがては30%まで上がるシナリオを書く。

とんでもないことだ。収入が変わらないのに購買価格が上がれば、消費は税が上がったぶんだけ下がるだけの話である。消費は縮小し、企業倒産が増える。得るものはない。経済を少しでも知る人なら、まず国民を稼がせることから始める。企業が儲かり、個人消費が増えれば、勝手に税金総額は増える事を理解しているから。
小さなピザではたとえ半分食べても空腹のままだけど、大きなピザなら4分の1でもお腹がいっぱいになるかもしれない。税は「率」ばかりじゃないのだ。

与謝野氏は大臣就任直後、「いま頑張って税金を払っておけば将来しっかり戻ってくる安心感があれば国民も納得するだろう」などと発言していた。この人バカではないが、じゅうぶん確信犯である。

たとえば日本の年金は賦課(ふか)方式である。
自分が払った保険料はしっかり貯金されていると思ったら大間違いだ。今年あなたやぼくの給料から天引きされた保険料と税金は、そのまま今のお年寄りに支払われ、消えている。与謝野氏のどの口が言ったか知らないが「しっかり戻ってくる安心感」などないのだ。しかも今のお年寄りは、自分が払っていた以上のお金を年金で貰っている。

お年寄り官僚や政治家に未来のことを考えさせてはダメだ。
どうしても既得権益を守ることが最重要で、先のことは自分らがいなくなったら考えてよ。みたいなことになる。それが増税への短絡思考を見てもわかる。

考えてみれば「年をとったから年金」というのも限界なんじゃないかと思う。60歳を越える高齢者世帯の貯蓄額は平均2500万円。「そんなに持ってても」と思うが、当人たちにしてみれば「100歳まで生きたらどうする」と、なかなか資産に手をつけられない。年金まで貯金するありさまだ。孫の払う年金まで手をつけることが、はたして幸せなのだろうか。

ちなみに香港では、2000年まで年金制度そのものがなかった。
それでも男性の平均寿命は日本人のそれより長い。ちょうどぼくが香港に渡ったタイミングで始まったMPFという積立年金は、もちろん日本のように賦課方式ではない。個人が半分、会社が半分をだし、預けたお金はファンド会社で運用され(金利5~8%)、65歳以降、払った人のもとに返ってくる。あとくされなく、合理的である。

ついでにいえば、香港には消費税も付加価値税もない。
課税される予定すらない。

与謝野さんは一度、香港で丁稚奉公してみたらいい。


▲ 香港、チムシャーチョイのフェリー乗り場付近に突如現れた巨大阿修羅像


▲ なくごはいねえが〜


香港はいつきてもパワフルですが、この度は日本が日本だけに余計パワフルに思えました。

5 件のコメント

  • なおきんさん、遅れましたが

    お誕生日おめでとうございます
    素晴らしい一年になりますように

    政治家は国民ではなく自分達のことが一番大切なんですね。

    胸がスカッ!とする一文が。(笑)

    なおきんさん、旅にでていらしたんですね。
    よい旅を!

  • お誕生日おめでとうございます。
    強行スケジュールでさぞお疲れだったのでは。

    私は香港に15年も住みながら、住民税も厚生年金も所得税もコツコツと支払い続けてきました。今の日本の政治には飽きれてモノが言えません。来年日本を脱出いたします。

  • こんばんは。

    そもそも「お金」の管理能力がない日本政府が「僕らにお金を預ければ大丈夫だよ(キリッ)」なんて言われても説得力ないですもんね(笑)

    格付け会社は期待感だけ数値化してりゃよいのに危機感を煽って、それすら需要に変えてしまうえげつなさには頭が下がりますよ(´Д`)

    国内市場を自由度の高い経済活動ができるように解放して外資もどんどん取り込んで企業を支援していけばチマチマした増税なんてしないで健全なインフレを起こして復興のスピードも上がって良いことずくめなのに何がそうさせないのでしょうか?

    ただ単に年寄りの執念ではなく外からの力も感じますね。

    この問題の根っこはかなり深いとこにありそうです。

    それではまた。

    失礼しました。

  • こんにちは
    なおきんさん

    僕は今回の記事を読んで官僚になりたくなりました。
    地位と金が手に入りますからねぇ。

  • はてなさん、一番ゲットおめでとさまです。
    お祝いの言葉どうもありがとうございます。週末、ちょっとだけ香港に行ってました。人は手にするとなかなかそれを手放そうとしないものです。権力しかり名誉しかり。でも同じ理由でそれらを失っていくのでしょう。まるでイソップ童話のような今の日本の政局です。
    ——————————–
    うらっち、こないだはどうもありがとう!いただいたカードは棚に祀られているよ。そうかー、もう15年も香港で暮らしてるんだねえ。来年日本脱出とは、ついに本拠地移転?それもまた生きる道だね。応援してます!
    ——————————–
    じさん、この格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ社は、サブプライムローン格付けで大間違いをしでかした会社。それに恥じて会社をたたんでしまったのかと思っていたら、まだまだ大手を振って人の国の国債の格付けをしては偉そうにしています。困ったものですね。でもまあこうした格付け会社が指摘しようとしまいと、増税案ばかりが跋扈する永田町と霞が関の人たちにはもう少し経済を勉強してもらいたいものです。エリートはとかくとんでもない勘違いをしてきますから。
    ——————————–
    ジョジさん、こんにちは。ぜひ官僚になって内側からぶっ潰して欲しいところだけど、そのままミイラ取りがミイラになってぶくぶく私服を肥やしてしまいそうだから目が離せないね。ふふふ。

  • コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

    ABOUTこの記事をかいた人

    なおきんプロフィール:最初の職場はドイツ。社会人歴の半分を国外で過ごし、日本でサラリーマンを経験。今はフリーの立場でさまざまなビジネスにトライ中。ドイツの永久ビザを持ち、合間を見てはひとり旅にふらっとでるスナフキン的性格を持つ。1995年に初めてホームページを立ち上げ、ブログ歴は10年。時間と場所にとらわれないライフスタイルを めざす。