ウォール街占拠を見て

「金持ちはますます金持ちになり、貧乏はますます貧乏になる」

中産階級から貧困層へ転落したのはここ4年間、米国だけで1千万人を超えた。
さらに健康保険料が払えない人たちは5千万人もいる。これが日本だったら、と思うとゾッとする。大きな病気や事故にあえば、治療は受けられてもそれだけでその家族は破産する。年金受給を数年遅らせる可能性を見せただけでこの騒ぎだ。

「もらえるはずのものがもらえなくなるなんて・・」
失うものに対する恐怖は、深刻な世代間抗争を生むかもしれない。いまの60代よりも40代の年金受給総額は減るだろうし、30代はさらに、20代はさらにもっと減るだろう。


▲ 同じ高層ビルでも新興国とは違い、風情のある建物が多いのがNYが好きなところ


マディソン・スクエア・ガーデン付近

9.11で崩壊したWTCビルのあった付近。
そのすぐそばにあるズコッティ公園は、もう1ヶ月半も格差反対デモ隊によって占拠されている。キャンプが張られ寝泊まりをし、振舞われるサンドイッチを頬張る。プラカードをもった人たちでごった返す付近から、10分も歩けばゴールドマン・サックス本社があった。

ウォール街占拠デモに好意的な米国人は50%を超える。
1%の人間のために99%の人間が搾取されていると同調する。
先日観た『インサイド・ジョブ』というドキュメンタリー映画の中で、中国銀行のアンドリュー・シェンのセリフが印象的だ。
「なぜ金融工学者(エンジニア)は本物のエンジニアより何百倍もの金をもらっているのか? エンジニアは橋を作り、金融工学者は夢を作る。夢が悪夢になったらツケを払うのは別の人間だ。」


▲ 世界の主要都市にはゴミ箱がふつうにあるのに東京は?

けれども米国に広がる格差の真犯人は金融業界ではないだろう。
真犯人はと「グローバル化」と「IT化」だとぼくは思う。

製造業が低コストを求めて中国などに生産拠点を移したために失業者が増えたことに加え、95年以降、ITに代替可能な知識労働者(ホワイトカラー)はしだいに仕事がなくなり、10年目を境に高度なIT知識を持つものとそうでないものとの間に、圧倒的な差がついてしまった。労働人口がより労働生産性の低いサービス業に移行したから、賃金が低下した。
持つものはさらに得るし、大勢の持たざるものはさらに失った。
単純労働者はグローバル化によって仕事を新興国に奪われた。

たとえば日本の単位労働コストは中国の2倍。生産拠点をそこに奪われたくなければ、所得が半分になるのを我慢しなくちゃならない。製造業が社員を雇わず派遣を採用するのはグローバル化が理由だ、差別じゃない。


▲ 交通整理は金融業界にもそれなりに必要だ

世界人口70億人のうち、年収3000ドル(24万円)以下の人口は40億人もいる。
あなたにもし400万円の年収があれば、世界の1%の富裕層ということだ。ピンと来ないかもしれないが、世界標準とはそんなものである。

ウォール街に集まりデモをしている人たちの年収はいくらだったのか、とふと思う。彼らが望むように世界から格差をなくせば、彼ら自身がいまより生活が苦しくなる可能性だってあるのだ。

「金持ちを殺せ!」
中国やソ連社会主義革命はそのように行われた。
だが何十万人もの金持ちを殺したあとに続いたのは何千万人もの飢えによる死者だった。

たしかに金融業界には金持ちが多い。
儲けは自分の懐に入れ、損失は他人に払わせてきた。
ぼくもそのとおりだと思う。

ウォール街占拠運動は連銀による金融業界への救済策を妨害しているけれど、もし金融業が崩壊すれば困るのは大金持ちではなく、一般市民のはずだ。救済策を必要としているのは普通の生活者のほうなのだ。


▲ オープンしたばかりのユニクロSOHO店

また、格差運動をしている人達の大半は先進国の人たちである。
そんなひとたちはまた、IT化やグローバル化によって恩恵を得ている。
世界のトップ3%くらいの人たちが、他の1%の人たちを非難しているのだ。残りの95%の人々には見て見ぬふりをして。


バスケットシューズが積み上げられたコンバースの店内

もはや経済だけで格差を語るのは無理があるのかもしれない。
人間なんて所詮、幸福か、そうでないかでしかないのだから。

ウォール街占拠のようす(動画)


観光客が盛んにシャッターをきってました。ユーストもやってたんじゃないかな。だれもがにわかジャーナリスト

【写真と動画:なおきん Oct.22.2011】

5 件のコメント

  • ニューヨークカラー!すごい!
    ビビッドですね。
    行く先は明るいのか、暗いのか。
    今度ニューヨークに旅行に行くんですが、実際どんなものが見えるのか楽しみです。圧倒されすぎて帰って禅寺にこもりたくなる予感もしていますが(笑)

  • こんにちは。

    アンドリュー氏の言葉、とても共感します。

    残りの4%の人は、その「ツケ」の問題が可視化されて騒いでいるのでしょう。

    皆「自分達が幸せになれない世界は間違っている」と主張して譲りません。

    かといって日本の大多数の労働者階級のように思考停止状態で日々を過ごすよりも考えて行動するとゆう選択をしたウォール街デモの人達の方がより人として健全なようにも思います。

    そのうち日本でも大規模なデモが起こるでしょう。

    日本もTPPの影響でデフレが加速して今後、数十年は給料が下がり続け失業者も増え続けます。それに加えて増税ですからね・・社会保障制度は破綻するでしょうね。そこから始まって国際競争力を取り戻さない限りは日本経済は過去の栄光を夢みて死んでいくだけじゃないかなぁ。

    現代型資本主義からシフトして期待値を具現化して稼ぐ金融を排除しなければ資本主義は続かないでしょう。

    今後の成長には莫大な時間と思考を消費しなければならないと思う今日この頃です。

    失礼しました。

  • こんばんは。

    二度目のコメント、失礼いたします。

    前のコメントでTPP推進賛成みたいな感じになってしまったので「言い訳」をさせてください。

    僕の主観ではTPPで日本の市場が解放されれば保険、医療等を外資に乗っ取られて社会保障は崩壊してしまうと思います。

    デフレの加速と税収のバランスも崩れて日本の中流階級は経済的に今よりも貧しくなり消費意欲は安い商品ばかりになり日本企業は衰退していくと思います。

    また高いコストで育ってきたジャパンクオリティも維持できないかもしれません。

    時代がどこへゆくのか、そして自分の解答は自分なりに考えなくては・・。

    いつも陳腐なコメントしかできなくてスイマセン(汗)

    失礼しました。

  • なおきんさん
    お帰りなさい。ニューヨークからのコメント返しありがとうございます。難聴は再発してしまいましたが自分でストレスを作ることもあります。前向きにとらえることで日々幸せに送れると感じています。だから最後の一行に反応してしまいました。「人間なんて所詮幸福かそうでないか、でしかないのだから・・・」
    気の持ちようですよね。
    ナオキンさんの日常が幸福でありますように。ちびきちくんんと共に。

  • どらみっちょさん、一番ゲット、おめでとさまです!
    NYの街角はどこも魅力的で、写真にもついレタッチ処理が過激になってしまいます。日本以上に不況感の強いアメリカですが、人々はいちいち明るいですね。それだけ日本人が暗くおとなしすぎるのかもしんないですが。
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    じさん、
    熱の入ったコメントをどうもありがとさまです(しかもふたつも!)。「他国が数百年かけて興廃するところを、日本はたった100年でやろうとしている」なんてことを耳にします。NYの街角で見る日本製品や広告塔は、今やひっそりと追いやられている感じがしました。それでも一縷の望みが日本にあるのは、民度の高さだとやっぱり思います。ぼくは他所の国の知らない街角に身を置くたびに「もしここで生きていかなくちゃいけないとき、まずなにをするだろう?」と考えます。フリーペーパーを配るあのバイトの時給はいくらなんだろう、とか、一食ありつくのに最低いくらかかるんだろうなんてことを。「どこにだって行ける人」というのは自由でお金がある人じゃなく「どこにいっても食べていける人」のことだと思います。ぼくはそういう人間でいたいなあ、と常々おもいます。
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    Kei3さん、
    難聴がぶり返したとのこと、心配ですね。くれぐれもご用心くださいね。報道番組を見ていると、「自分が生きているこの世界と時間」に不平不満ばかり言っているような気になります。でも少し考えればわかるように、そんなふうに我が身を呪ってばかりの人ってそんなにいません。少しでも楽しい毎日を送るようがんばっています。そして一日の終わりには、小さな幸福感に身を震わせる瞬間を胸に抱いて眠るのです。それが出来るか、出来ないかは察しのとおり気の持ちようですね。

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    なおきんプロフィール:最初の職場はドイツ。社会人歴の半分を国外で過ごし、日本でサラリーマンを経験。今はフリーの立場でさまざまなビジネスにトライ中。ドイツの永久ビザを持ち、合間を見てはひとり旅にふらっとでるスナフキン的性格を持つ。1995年に初めてホームページを立ち上げ、ブログ歴は10年。時間と場所にとらわれないライフスタイルを めざす。