うっかり映画『テルマエ・ロマエ』(2ではなく1のほう)を観てしまったぼくは、だからというわけではないが古代ローマ帝国にちょっとした片思いをした。相手を好きになれば相手を知りたくなるのは恋と同じ。ディスカバリーチャンネルの特集を見たり、関連するいろんな書籍を読んだりした。だが実ることのない片思い、いつしか熱も冷めてしまう。知った内容もいくぶん忘れてしまった。人は忘れることで成長するのだなあ、とこのごろは特に思う。ただの物忘れかもしれないが。
覚えているのは「うんこ」のことだ。
ポンペイを壊滅させたヴェスヴィオ火山噴火は、同時にヘラクラネウムという町も壊滅させた。そこは浅い火山灰層に覆われたポンペイとは違い、20メートルも分厚い堆積層の下だったために発掘が遅れ、そのぶん荒らされず、より精密な調査ができた。400度の高熱に焼かれ、一瞬で灰になった人や建物、生活用具。大量のうんこもそのひとつである。うんこに喜ぶ人はちょっとアブナイが、「古代うんこ」となれば話は別だ。喜んだのはヘンタイではなく世界中の学者や歴史家であった。うんこ(もちろん化石)を調べれば、当時の古代ローマの人達が何を食べ、どんな生活をしていたかわかるからだ。トイレの壁には「見事なうんこだこと!」と感極まる落書きも残る。「一発ヤリたい」的な現代のらくがきに比べ、なんともさわやかである。
うんこの成分調査の結果、古代ローマの人たちはずいぶんと栄養価が高くバランスの良い食事をしていたことがわかった。新鮮な魚、野菜、上質なワイン、加えてこのヘラクラネウムでは人口の7割は解放奴隷たちであった。裕福な人びとはもちろん、そうでない人びとも同じようなものを食べていた、というところがポイントだ。同じころ、北欧の人びとの身長は150cmほどしかなかったのに、平均的な古代ローマ人は男女ともに大柄で体格も良かったことが骨や壁画などにみられる。
21世紀の先進国で暮らす人々より、2000年前の古代ローマ人たちのほうが文化的で健康的な生活を送っていたかもしれない。これから2000年後、ぼくたちのうんこを調べ、同じように「古代ジャポンで暮らしていた人は、わしらより文化的で健康的な生活を送っていたようじゃ」と言われるのだろうか。
それもなんかイヤだ。
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