BBCで放送禁止となった「自殺したくなる曲」を聴いてみた

噂によれば、聴くと自殺したくなる曲があるらしい。

タイトルは『暗い日曜日(Gloomy Sunday)』という。
ハンガリーのピアニスト、レジョー・セレッシュが1933年に発表した。別れた恋人への傷心から書かれた曲で、美しくもの悲しい。伝えられるところによれば、この曲を聴いてしまったことで自殺に至ったのはハンガリー国内だけでも150人、全世界で数百人もいるといわれる。作曲した本人も自殺し、別れた恋人も自殺したという。英BBCはこれ以上被害者を出すまいと、66年間この曲を放送禁止とした。

ブダペストの街並み、午前5時ごろ 撮影:なおきん

聴くなと言われれば、聴きたくなるのが人情である。
さっそく近くのレコード店で取り寄せしてもらい、今しがた家に持ち帰ったところだ。包みからレコードを取り出しターンテーブルに乗せ、針を落とす・・

というのは冗談で、ネットで2秒で見つかった。
iTunesやアマゾンプライムでも、最近話題のSpotifyでもリストアップされており、会員であれば自由に再生できる。オリジナルのハンガリー語のほか、ビリー・ホリディやシンニード・オコナー、淡谷のり子などが歌うバージョンも聴いてみた。最近では小南泰葉もカヴァーしているようだ。曲のスタイルも、ジャズあり、シャンソンあり、ポップソングであった。Youtubeではわざわざ「ハンガリー自殺ソング」として紹介されていた。

 

ビリーホリディの歌うそれは、なんだか藤圭子の「夢は夜ひらく」のようである。個人的には、エレン・アンダーソンの歌うメロウジャズな曲がいちばんしっくりきた。ひととおり聴いてみたけれど、聴いたあと、おもむろにピストルでこめかみを撃ち抜きたくはならなかった。もし中島みゆき、か 山崎ハコが歌っていたなら、この限りではないかもしれないけれど。

 

ブダペスト東駅ターミナルの風景 撮影:なおきん

曲の影響ではないと思うが、ハンガリーは自殺率が高いことでも有名だ。
先日発表されたランキングでは世界第5位(日本は6位)であった。なぜハンガリーなんだろう?隣接するポーランドやチェコ、ルーマニアにはそれほどでもないのに。概してハンガリー人は生真面目なのだろうと思う。内省的なところもあるかもしれない。失恋してもイタリア人のように「次いこ、次!」とはならず、在りし日の思い出とともに過ごすのだ。たぶん、恋人の手紙も捨てずにとっておくのだろう。

 

朝日を浴びるハンガリーの郵便ポスト 撮影:なおきん

物悲しい『暗い日曜日』は、そのタイトルからも彷彿される。週末が終わりまた憂鬱な月曜日がやってくる。日本ではさしずめ「サザエさん症候群」である。月曜日の朝起きて、会社に行くことを想起させられ、死にたくなる人もいるかもしれない。だがいくらなんでも自殺者数百人というのは大げさではないだろうか? 本当なのだろうか? 日本では朝日新聞がこれについて取材していた。

取材記者はブダペストで1冊の本と出会う。83年にハンガリーで出版され、「自殺伝説」を追う内容だ。本では自殺者の職業と名前が挙げられ、曲との関連性を調べられていた。結果、関連があったと思われたのは5人だけ。さすがに数百人というのは誇張であった。原曲は歌詞がなかった。作曲したセレッシュはレストランで演奏するピアニストである。ネットでは「歌がハンガリー語だから自殺しようにも意味がわからない」などと書かれていたが、歌詞など もとよりなかったのである。後日、ヤズロ・ラーヴォロが詩をつけ、各国語に翻訳された。自殺するほど悲しいという噂を裏切らないよう、「死」を匂わせるよう歌詞に織り込んだ。本を著したボッコイ氏は、セレッシュを知る人物である。「確かにセレッシュは自殺したさ。でも、知る限り恋人は自殺していないし、奥さんも自然死だったよ。」と取材に対して答えている。

ドナウ川とハンガリー国会議事堂 撮影:なおきん

 

「聴くと自殺したくなる」という『暗い日曜日』は、いわゆる都市伝説である。原曲は確かに陰鬱としている。こんな曲をレストランで生演奏され、客はいい迷惑だったにちがいない。「飯が不味くなる!」と。かつて日本でも「失恋レストラン」なんて曲が流行ったものだけれど。

また、曲が作られた1933年という年は世相的にも暗い時期であった。ナチスの圧力がかけられ、1930年後半にハンガリー王国は、ナチスドイツに同調する形で枢軸国となる。ブダペストや各地ではユダヤ人狩りが始まり、収容所へ強制連行されていった。やがて1939年、ハンガリーはドイツとともに第二次大戦に参戦したのだった。自殺なんかしなくても、戦争に巻き込まれ、多勢の尊い命が失われたのだった。

 

アール・デコの装飾はブダペストのいたるところに見られた 撮影:なおきん

 

こんにちネットではさまざまなことが検索できる。
だがそこには「検索してはいけないキーワード」も存在する。『暗い日曜日』もそのひとつだった。まともな人間ならば「聴くと自殺したくなる」と言われて、じゃあ聴いてみようか?とはならない。

真相はそうでなかったにせよ「検索してはいけないキーワード」は、他にも驚くほど多い。中には「検索しなきゃよかった!」と猛烈に後悔するものもあるのだろう。グロ系や超自然現象、もれなくウイルスが感染したり災いに遭遇するサイトは実在する。ぼくは最後の一線を越えられなかったが、あなたはそうでないかもしれない。

興味があれば、個別に教えてあげようか。

 

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なおきん

なおきんプロフィール:最初の職場はドイツ。社会人歴の半分を国外で過ごし、日本でサラリーマンを経験。今はフリーの立場でさまざまなビジネスにトライ中。ドイツの永久ビザを持ち、合間を見てはひとり旅にふらっとでるスナフキン的性格を持つ。1995年に初めてホームページを立ち上げ、ブログ歴は10年。時間と場所にとらわれないライフスタイルを めざす。