タイムマシンとミライくん

なおきんとタイムマシン

 

タイムマシンの後遺症

何十年もむかし、ぼくがまだ中学生だったころのことだ。

同じクラスに「ミライくん」というあだ名の生徒がいた。同い年のはずなのに顔も所作が中年のおっさんのようで、やたらと毛深い。担任の先生なども、生徒と話している気がしない、お前がいるとここが職員室のようだな。と笑う。いまならさすがにこの先生の発言は問題がありそうだが、妙に納得させられたものだった。

ミライくんは頭が良かった。それほど勉強している素振りもないのに当てられればスラスラ答えるし、テストの成績もよかった。そのため「答えをあらかじめ知っていたにちがいない」とクラスの生徒から揶揄され、つまりは「未来から来た男」とされた。これがあだ名の命名理由である。老け顔もその裏付けとされた。ほんとうの歳は41だと勝手に決めつけられもした。奇しくも天才バカボンのパパと同い年とされたのだ。頭がいいだけで年齢詐称扱い、そんな時代であった。ほとんどやっかみだったに過ぎないのだけど。

ミライくんの存在のおかげで、ぼくはやたらとタイムマシンに興味をもつようになり、自分でも調べたことがある。ちょうど初期の『宇宙戦艦ヤマト』が映画化されるなど、ワープが話題になっていたこともある。ローティーンの子供に、ワープはあまりに刺激的すぎた。前回の『相対性理論』でもふれたように、重力によって時間や空間が曲がるのなら、その2地点をU字型に曲げ、その間をトンネルで通せば時空の近道ができる。これがワープだ。このトンネルを自由に行き来できる機械がタイムマシンというわけである。好奇心が刺激されてやまないではないか。

ミライくんは後頭部が凹んでいて、浅いクレーターのような跡があった。それで初期のあだ名は『ぺったん』だった。ワープするには都合の良い形だったのかもしれない。あるいは時空のゆがみに巻きこまれているうちにああなってしまったのかもしれない。つまりはタイムマシンの後遺症であるとされた。と同時に、その程度の後遺症で済むなら自分もタイムマシンに乗ってみたい。とうわさしていた。子供というのはつくづく残酷である。屈折した妄想力を併せ持つ。

ミライくん(中学の同級生)

 

目的は死者と会うこと

超高速で動くものは時間の進みが他より遅れる。
これが特殊相対性理論である。だとすれば、超高速で動く乗り物へトンネルの出口でのりかえれば、入り口では24時間経つのに出口では1時間しか経っていないということが起こる。この差異によって「1日前に戻る」ことができるわけだ。時差なんて国際線の飛行機に乗れば叶うが、もちろんこんなのワープじゃない。それに41歳のミライくんは27年先(= 41歳マイナス14歳)から、ひょいと戻ってきたのだ。そしてぼくと同じ教室で過ごしている。はじめはからかっているつもりだったけど、次第にありがたく思えるようになってきた。親友になれば、彼が次にミライに帰ったときにぼくがどうなっているか見てきて、こっそり教えてほしいと。ついでにいろんな用事を頼まれてほしいとも思った。

ミライくんの後頭部の凹み、それはまさに希望であった。中学生とは思えないほどの体毛の濃さは、彼が大事な存在であることの証でもある。「大事なところに毛は生える」といわれるからだ。

 

そんなミライくんであるが、実は少し前に彼の訃報が届いた。

しばらく前にブログでぼくを見つけた元クラスメートがメールで知らせてくれたのだ。もう何十年も会っていないし本名にピンとこなかったので、はじめは誰のことかわからない。「ミライくんのことだよ」と言われ、ようやくああ、と認識したほどだった。ご冥福をお祈りします。・・そうしていろんなことを思い出した。タイムマシンについても、である。

いまもしタイムマシンがあったなら、過去に飛んで、亡くなった人たちに会いたい。過去にこそ関心がある。未来はだまっていてもやってくる。難しいことじゃない。やろうと思えば自分でなんとか変えられる。だからマシンは必要ない。だけど過去は違う。この先待っていてもどうあがいても出来ないのは、時間を取り戻すことだ。または亡くなった人との再会である。言い残したことや、聞き逃していたこと。そんなものが数え切れないほど、ぼくにはある。たぶん、いろんな大事なことをあとになって思い出すからだろう。それからこれまであまりにも振り返る機会が少なかったせいかもしれない。

 

タイムマシンでいつでも好きなときに死者に会えるのならこの先、誰かやなにかを失うことがあっても、それほど悲しまなくてすむんじゃないかと・・・中学生の時の自分はきっとそんな事を考えていたに違いない。

いまもだけど。

 

 




なおきんとタイムマシン

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なおきん

なおきんプロフィール:最初の職場はドイツ。社会人歴の半分を国外で過ごし、日本でサラリーマンを経験。今はフリーの立場でさまざまなビジネスにトライ中。ドイツの永久ビザを持ち、合間を見てはひとり旅にふらっとでるスナフキン的性格を持つ。1995年に初めてホームページを立ち上げ、ブログ歴は10年。時間と場所にとらわれないライフスタイルを めざす。