一瞬出てすぐ消えた運河建設計画
運河といえばパナマ、スエズが有名だけど、このごろパナマといえばパナマ文書が想起される。タックスヘイブン(ヘブン=天国じゃないことに注意ね)は興味深いが、国内ニュースでは舛添都知事関連の報道がうるさすぎて、他の大事なニュースが聞き取りづらい。いつものことだが、どうでもいいニュースほど騒がれる。
東南アジアに目を転じれば、あの「クラ運河建設」の話はどうなったのだろう?
マレー半島のほぼまんなか、クラ地峡とよばれる半島が最も狭くなっている場所に、運河が建設されるという報道が2015年5月にあった。それで両国が覚書を交わしたと。報道は台湾のメディア。場所を提供するタイ、資本を提供する中国。そんな2カ国プロジェクトである。本当か!だったらものすごいインパクトがある。公開入札ではなく、あくまでも中国と話を進めるタイ。だが報道直後、中国外務省とタイ政府がこの報道を猛烈に否定した。
いったいなぜ!?
日本のメディアはほとんど報じなかったこのニュースが、いまだ気になってしかたがない。
原発再稼動もままならない日本で、頼りになるエネルギーは結局石油と天然ガスしかない。その大部分は中東からの石油で、ほとんどがマラッカ海峡を通って日本に運ばれてくる。ここが万が一封鎖されることになれば、日本はたちまち干上がる。もちろん日本に限らずアジア40億人に影響が出る。
クラ運河は、マラッカ海峡という大動脈でありアキレス腱でもある従来の航路とは別に、人工的に航路を新設するというものだ。しかも従来よりショートカットが可能となる。例えば中東から日本にタンカーを運行する場合、片道で4千万円程度の燃料費の節約になり、2〜5日ほど航海が短くなる。完成すればアジア地域の物流は劇的に変わることだろう。
構想は17世紀からあったクラ運河
クラ運河の建設計画はさかのぼること17世紀からあった。構想していたのは、当時この地域を支配していた大英帝国である。想像してほしい。もし17世紀にクラ運河が開通していたら、その後の歴史は変わっていた。ヨーロッパ列強の軍艦の航行はもっと活発だっただろうし、挫傷の恐れのあるマラッカ海峡を通らずにすむなら、さらに大型艦船や軍艦を東アジアに送り込めたかもしれない。となれば、日本が独立できていたかどうかもわからない。日露戦争のとき、ロシアのバルチック艦隊乗組員はマラッカを経由中に風土病にあったりと疲弊したが、そんなことがなかったら士気高いまま、日本の連合艦隊を打ち負かしていたかもしれない。
運河の建設をジャマしたのは当の大英帝国であった。17世紀は技術的に難しかったが、19世紀にスエズ運河を構築したレセップスなるフランス建築家が、その実績を携えてタイ政府に運河建設を持ち込んできた。だが彼が率いていた建設会社は経営難に陥り、大英帝国に売却されたばかり。当の大英帝国はクラ運河に航路を奪われれば、自ら要塞を築き支配していたシンガポールの影響が低下するとし、これを頓挫させたというわけだ。さすがは7つの海を支配していた大英帝国である。
タイは建設には積極的である。国際航路を自国に持つことになるからだ。戦後もアメリカ、イギリス、フランス、日本とプロジェクトを立ち上げては建設計画を行なった。たかだか100kmの運河建設なんて技術的にはまったく問題はない。だがそれぞれに思惑があって、うまくいかない。クラ地峡のあたりはイスラム系住民も多く、彼らも建設のジャマをした。
運河建設は経済発展?それとも新たな火種?
計画が動いたのは中国であった。中国共産党が構想する「海のシルクロード」にクラ運河は欠かせない。自分たちの影響力で運河が完成し運営できれば、南シナ海と共に地域の覇権が完成するからだ。運河通行料で儲け、政治的に反目する国は排除すればいい。となれば、中国の覇権を嫌うアメリカがこれのジャマをする。おそらく2015年の報道後に、アメリカがタイ政府に圧力をかけたのではないかと個人的には思う。
カリブ海に目を向ければそこに「第二のパナマ運河」と呼ばれる「ニカラグア運河」の建設計画もある。施行するのは香港の建設会社で、中国の影響にあることは間違いない。アメリカはこれも圧力をかけて潰しにかかっている。
運河建設をめぐる、アメリカと中国の覇権争い。16世紀の大航海時代からこっち、海を制するものが世界を制するのだ。日本も影響を免れない。
クラ運河はあったほうがいいのか悪いのか?
経済発展の救世主か、新たな火種か?
今後とも目が離せない。
ていうか日本ではなぜ報道されないのだろう?
最近のコメント