ジャガイモ大国、ロシア

ロシアに滞在中は、毎日ジャガイモばかり食べていた。
とくに意識したわけではないのだけど、肉や魚の付け合わせにはたいていジャガイモがついてくるし、それにおいしい。 不思議なことに白米を食べたいとは思わない。 まあ、まだ日本を離れて日が浅いからなのだろうけど。

ロシアのジャガイモ生産高は8千5百万トン、世界一である。1.4億の人口を単純に割れば、一人当たり一日1.6kg食べているということになる。 ちなみに中国や日本を含めたアジア全体で8千2百万トン。 束になってかかってもロシア一国にかなわないのだ。 ドイツ人もジャガイモ大国だから、あのでかい図体を維持しているのは肉ではなく、実はジャガイモなんじゃないかという気がしてくる。


▲ ロシアの数あるジャガイモ料理の中でいちばんお気に入りなのがドラニキ、ジャガイモのパンケーキである

だけど、ロシアにおけるジャガイモの歴史は意外と浅い。
コロンブスの新大陸発見によって、そこからヨーロッパや全世界にもたらされたジャガイモ。 日本はちょうど関ヶ原の決戦が行われていた1600年頃にポルトガル人によって持ち込まれた。 ロシアにはそれ以前に持ち込まれていたはずだけど、まったくといっていいほど民衆には広まらなかった。
禁止されていたのだろうか?
とんでもない。 むしろ奨励されていたのだ。
しばしばヨーロッパを襲った不作や飢饉、そんな時期でもジャガイモは育つ。 気候が厳しくても、土壌が貧しくても。 それに種子もいらない、種芋で育つ。 それに栄養満点、いろんな調理方法が楽しめる。 毎年食糧問題に頭を悩ませていたヨーロッパの絶対君主たちは、この新しい食材にいたく歓喜する。 「これさえあれば!」と。
17世紀末のピョートル一世大帝もその中の1人だった。さっそくドイツから大量に種芋を取り寄せ、ロシア全土すべての地方郡当局に、ジャガイモを栽培せよと勅令をだした。

しかし農民は食べようとも作ろうともしない。
だれもが「あれは悪魔の食べ物だ」と信じて疑わない。 食べれば間違いなく死ぬ、呪われる、と恐ろしがっていた。 そんな迷信を広めたのは旧教徒の聖職者たちでもある。 「ジャガイモは聖書には載っていない食べ物であり、クローン栽培する不気味な植物」というのが、悪魔の食べ物という根拠だ。

業を煮やしたピョートル大帝は農民を御前に集め、茹でたジャガイモを大皿に盛り、そこで自らジャガイモを食べてみせた。「ほら、このようにわしも食っておる」 とそれをほお張り、「おまえらも食え!うまいぞ!」とデモンストレーションをしてみせた。
しかし、農民は食べない。
大帝はこれに腹を立て、農民のひとりを引っぱり上げ、「食わんと切るぞ!」と剣を彼の首筋に突き立ててしまう。 それでも農民は食べようとしない。 ジャガイモを食べて苦しんで地獄に堕ちるより、あっさり首を切られたほうがマシと考えたのかもしれない。


帝政ロシア大帝 ピョートル一世

以上の説にはいささか誇張があるかもしれないけれど、いずれにしてもジャガイモが普及しなかったのは事実で、半世紀後の18世紀中ごろはエカテリーナ2世も同様に普及させようとしたのだけど無駄骨に終わっている。


▲ モスクワ赤の広場でたむろしている歴史上人物そっくりさんたち。ちなみに左端の女性がエカテリーナ2世のそっくりさんです。あとのふたりは・・、もちろんわかりますよね?

結局ジャガイモが普及しはじめたのはほとんど19世紀の終わり頃。 つまりジャガイモがロシアにもたらされて以来、約300年も普及せずにいたということになる。 日本ではちょうど江戸幕府直前から明治初期のころまでの期間。 まったく気が遠くなるほどだ。

そんなロシアがいまでは生産量世界一、食卓に上らない日がないほどのジャガイモ大国。 そのきっかけとなったのがナポレオン戦争に参戦した青年将校たちだ。 敵であるフランスの政治体制に惹かれ、ひるがえって自国の専制政治に疑問を感じ、異を唱えてついに1825年サンクトペテルブルグで武装隆起。 後にデカブリストと呼ばれる人たちであった。 隆起は失敗し、捕らわれ、何人かは絞首刑、残りはすべてシベリアに送られた。 彼らはその流刑先のシベリアで、現地人たちが自分たち以上に食料不足にあえいでいることに心を痛め、種芋を取り寄せ、これをシベリア全土に普及させたのだ。


▲ デカブリストと言われている青年将校騎士の像(サンクトペテルブルグ デカブリスト広場にて)

そんな歴史に思いをはせ、ロシアでぼくは毎日ジャガイモをほお張る。それを、ライ麦と酵母で作られるKBAC(クヴァス)という飲み物で胃に流す。

ふだんは意識すらしないジャガイモ。
しかし、これでいったいどれほどの人類が救われたんだろうかと、しみじみそんなことを思うのだ。


▲ そんなことを思いながら、やや熱中症気味のときの写真。だらしないカッコだけど、ほんと何しろ暑いので・・・

いまはゲテモノと思っているものも、時代が変われば主食になっちゃってるかもしんないですね

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5 件のコメント

  • ジャガイモにそんな歴史があったとは・・家庭菜園で作ってみたけど失敗しました。
    この記事を見て、あれれ?って思ったので。。。再トライ!してみますね〜。しかしながら、だらしなくない!ナオキンさんカッコいい〜〜セクシ〜〜!

  • なおきんさん、こんにちは。ジャガイモの普及の話面白かったです。でも頑固に300年も食べないなんて、宗教の力って凄いですね。ところでなおきんさんの旅行は、ネタ満載のドキドキハラハラな旅行でしたね。なおきんさんだから大丈夫と思いつつも、実際に旅行慣れしてない人だったらパニックに陥ってるだろうなって感じました。そもそも、旅行慣れしてない人が個人旅行に行くはずはありませんが。何はともあれ、ホテルが見つかった話は自分のことのように嬉しかったです。

  • コメント返しが視聴できませんがコメントさせていただきますね。

    食と文化は切り放せないですねー。

    食はある意味ではその国の象徴。

    起源をたどってゆくと面白いですね。

  • 暑い中 モスクワ旅行お疲れ様でした。
    モスクワ、Stペテルブルクとも雰囲気があっていいですね。ビザが面倒で未だ未踏の地となっています。

    写真は真ん中は分かりましたが、右側は?ヒゲの感じからすると同じく革命の祖の方でしょうか?

    全然関係無いのですが、初めてブログの広告から物を買ってしまいました。↓ソビエト・ビオラミュージックというマニアックなCDに目が釘付けに・・・。

  • こんにちは、なおきんです。いつもコメントいただきありがとうございます。音声コメント返しさせてもらいましたので、どうぞ。

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    なおきん

    なおきんプロフィール:最初の職場はドイツ。社会人歴の半分を国外で過ごし、日本でサラリーマンを経験。今はフリーの立場でさまざまなビジネスにトライ中。ドイツの永久ビザを持ち、合間を見てはひとり旅にふらっとでるスナフキン的性格を持つ。1995年に初めてホームページを立ち上げ、ブログ歴は10年。時間と場所にとらわれないライフスタイルを めざす。