モバイル業界の主客転倒

iPadがやってきて約2週間、すっかり生活に溶け込んでます。
これまでいろんな電子デバイスを使ってきたけど、こんなに自然に操作できるデバイスは記憶にありません。 ソファに座り、くつろぎながらのWEBブラウジングがなじむ。 そんなぼくを見て、ちびきちも思わず前足でタップ。 アプリを起動させてしまいました(事実)。 何を起動させてしまったかは秘密ですが。

ところで知ってましたか?

アップルのスティーブ・ジョブズCEOは、世界中で放映されるアップルのCMはすべてチェックしていて、ソフトバンクモバイルの「白戸(ほわいと)家のお父さん」についてもチェック済み。 「あのCM通り、本当に犬の肉球でも操作できるのか?」と、実際にテストさせたといいます。 すごいですね。 そのうち「あの犬は本当に日本語が話せるのか?」などと、開発チームに検証させたりしそうです。 コワイですね。 いや、別にコワくないですけど。


▲ 「イラ写」もiPadならまとめ読みがラクラクです

コワイといえばNTT DoCoMoの勇み足。
「ドコモでiPadが使えるようSIMを提供する」と大々的に発表。 後日、発言を撤回するハメになりました。 iPadiPhone同様3G回線を使い、どこでもインターネットに接続できるモデルもありますが、これにはキャリアから提供されるSIMといわれる小さな小さなカードが必要。 iPhoneは日本ではソフトバンクモバイルの独占販売ですが、「iPadは高級ネットブックであり、SIMフリーである」とドコモの山田社長、早々とiPad市場への参入宣言をしました。
しかしこれが仇になった。
アップルは発売前の製品には秘密主義を徹底しますが、ドコモの山田社長がまだ交渉中だったにも関わらず、これを外に漏らしてしまったのです。 おまけに「高級ネットブック」などといささか安易な表現で。 実はスティーブ・ジョブズネットブックが大嫌い。 基調講演でも「ネットブックはナッシングだ!」とこき下ろしています。
そんなアップルがドコモを許すはずもなく、交渉は打ち切られたのだろうと思います。 実はドコモは2007年のiPhoneのキャリア権取得交渉でも、オキテ破りの「iPhoneはドコモでやる宣言」をしてしまいました。 ドコモは世論形成して流れを作りたかったのでしょうが、ビジネスはシビアです。 「秘密保持契約」の不履行をする会社とパートナーになろうとは思いません、たとえアップルでなくても。



iPadアプリと戯れるちびきち

ドコモといえば日本一のモバイル会社。
けれどもそれを鼻にかけすぎているところもあります。 かつてドイツとフランスで日本から出張してきたドコモの人たちと海外キャリアの交渉に立ち会う機会がありましたが、その威光が全く届かない海外においても国内同様にふるまいパートナー交渉相手にひんしゅくを買っていました。

国内の携帯メーカーはキャリア(モバイル通信会社)に頭が上がりません。
理由は携帯メーカーのキャリア依存症にあります。 海外と違って日本では、メーカーはドコモなどのモバイルキャリアの要求に従って商品を開発し、これを買い上げてもらっています。 メーカー名が製品に刻印されてないのはそのためですね。 つまりメーカーにとってお客さんは利用者じゃなくキャリア。 利用者不在の構造はここにも見られます。
けれどもこのしくみにはそれなりのメリットがありました。
そのひとつが販売奨励金。
日本のケータイ端末があれほど安く買えるのは、キャリアが販売店が一台契約するごとに5万円程度の報償金を払っていたからです*1。 これは日本のケータイ普及に大いに役立ったものの、同時にメーカーがキャリア依存症に陥るといった負の遺産を残しました。

アップルは世界の音楽業界や出版業界を変えつつありますが、モバイル通信業界も変えつつあります。 メーカーとキャリアの関係を主客転倒させてしまいました。 つまり「商品力があれば、メーカーこそがキャリアを選ぶ」という構図。 アップルのドコモ排斥はその意味で象徴的でした。 それから先日発表された富士通東芝のケータイ統合も、そのようにアップルのような強い商品力を持ち、キャリア依存を脱する心持ちの顕れなんじゃないかと思います。

アップルはiPhoneに続き、iPad販売においてもソフトバンクモバイルをパートナーに選びました。 秘密保持を守り、アップルの要求にちゃんと応えたからでしょう。 iPhone3Gのプロモーションも見事でした(米国以外ではソフトバンクiPhone契約数 No.1)。 けれども利用者からすれば「ソフトバンクはつながりにくい」という通信エリアの不満があります。ソフトバンクモバイル基地局は58,000。 対してドコモは90,000もあります。 iPhoneで懲りているぼくは、iPadがドコモで使えるのなら3Gモデルを買おうと思っていました。 実現すれば人生初のドコモ経験となったはずです。 けれども、アップルはソフトバンクの強い要求を受理して「日本はSIMロック仕様」という暴挙に出ました。 つまり日本のみ異例の独占キャリアを許したのです。 これはフェアなやり方じゃありませんが、孫社長へのスティーブ・ジョブズの信頼は相当厚いとみて間違いありません。

最近ソフトバンクモバイル「電波改善宣言」をやって、電波の入りにくい場所に積極的に基地局を設ける動きに出ています。 おそらく、これについてもアップルの関与があったんじゃないかとぼくは思います。 今回のiPad 3G版の独占販売権を与える条件として「どこでもつながりやすくする」ことをソフトバンクモバイルに約束させたかもしれません。 「Wifi無線LAN)ポイントをiPadユーザーに無料提供する」こともその一環でしょう。 ぼくはiPadソフトバンクショップではなく、アップルストアで買いましたが、ソフトバンクWiFiスポットが利用できる無料アカウントが同梱されていました。 案内が不十分でまだ接続に成功していませんが。

端末メーカーがキャリアを選ぶ。
はたしてこのことが、ぼくたち利用者にとって良いことなのかどうか? もう少し様子をみなければわからないけど、日本のケータイメーカーに「本当のお客さんは利用者である(キャリアではなく)こと」を強く認識してもらうにはいいことのような気がします。
少なくともアップルを見ればそれがわかります。

日本のメーカーでないことが、やっぱり残念なのだけど。

■ 3Gモデルだけが「どこでもインターネット」ではない

イー・モバイルPocket Wifiを使えば、安価モデルのiPad Wifiでも屋外や好きな場所でインターネットにつながります。しかもノートPCやiPhoneなど5台まで同時に接続可能だから、経済的。 本体価格は1円(2年契約)。通信料金は月額1000円から。

長い記事を最後まで読んでくれてありがとうございます。ところどころ、わかりづらい箇所があったらごめんなさい。企業に勤める方、どうか利用者にとって本当によいサービスや商品を世に提供できるよう、おねがいします。もちろんぼくもがんばります。

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ええっ!いつの間にこんな・・

*1:2010年からは端末代と通話料の分離表示が義務づけられている

7 件のコメント

  • 「日本のメーカーでないからできた」が真相でしょう。
    昔、散々ドコモさんたちには振り回されたでしょう、一緒
    に。英語ダメ、ドイツ語無理、フランス語何?で、ファー
    ストで6星ホテルに滞在2週間に4人も来て1千万円の出
    張経費を使うのに、あれほど「フランスはフラン語でなけ
    ればダメですから通訳を」と言っても、「国際事業部の人
    間は英語できることになっているんで通訳代が認められな
    いんですよね」、「お前ら猿以下のアホタレ」っと心の中
    でつぶやいた事もありましたっけ。日本のキャリアは欧州
    では、「全く相手にされていない、バカにされるとかされ
    ないとかの以前な感じ」です。お互いに見ましたよね、同
    じ会社の中で、呆れに呆れたどうにもならない連中のお世
    話をしながら...

  • 普通なら、どこそこメーカーのなになに(名前)、と言ってくれればすぐ(ほぼ)分かる携帯電話の種類と機能。どうして日本の携帯電話は番号なのか謎だったのですが(分かりにくいったらありゃしない)、この記事でそのワケがよく分かりました。ぎゃぴーーーん!ウッソー!! です。日本では、ケータイ利用者は事業者のことで、消費者を指すのではないもよう。 それでは、今、日本のケータイメーカーが直面している問題(日本で売れなくなった。だから海外で売りたい)は、結局自分の身から出たサビといえそうです。だって、将来的なビジョンなく(メーカー)、日本のマーケットだけで循環するモノを事業者の言う通りに作り続けていたわけですし。しかも、奨励金こそが日本のケータイメーカーを支える柱だったとは。。。これじゃ、競争力はつきませんよね。もまれるのがイヤっていうのか、シビアなものは避けて通ろうとする、というか。。。メーカーだけじゃなく事業者そろって作り上げた、この体質そのものがまさに日本的だったわけですね。

    あと、守秘義務の重さが分からないトップにも、リーダートレーニングが必要かと。あんなんじゃ、長い間交渉のために、一生懸命下で働いてきた社員全員をレットダウンさせてしまうだけでしょう。トップ自身がもまれていない、というのは意外であり、マイナスですね。。。スティーブ・ジョブズはその点違ってますよね。もまれにもまれて、彼は天才であると同時に苦労人でもありますよね。段違いなのも仕方ない?

  • なおきんさん、お元気ですか。
    ごぶさたしています。覚えてくださっているかしら。
    「ここのコラムに書いている内容は……」のところ、私のケータイでは読むことができるのですが。(それに、「桜…」のところも読めます。)
    ケータイでも見られるから、最近はケータイでこちらに訪問することが多くなりました。2年半前に買ったのをまだ使ってます…。

  • 家族間通話を無料にしているため、ドコモユーザーから脱退できません・・・そんなわけで、iPhonもiPadも購入に踏み切れていません。あぁ・・・。どうでも良いけど、日本の企業はもう少し消費者のことを考えてほしいです。

  • ドコモって・・・もともとが電電公社なんて独占企業だったからダメなのでしょうか?
    少しはいろいろな所で働いてみましたが、「できる!」と思える男性に会えたことがありません。
    既得権を守ることしか考えていないし、「派遣の女」なんてと思っているのがありあり。
    ワタクシ、確かにそれ位の女なのかも知れないけれど、かなしいです。
    認めてくれとは言いませんが、せめて感動させて欲しいです。

  • 昔の同僚さん、いやはや最近いろんな昔のことが思い出されます。 昔の同僚さんのドコモさんのフランスへのアテンドはホントたいへんでしたね。でも無理もないのかな、と。国内ではいろんな業者が彼らの元に馳せ参じている状態だったですからね。天狗になっても仕方ありません。おまけに「日本のケータイは世界標準の10年先を行っている」なんてことがいわれていた時代だったし・・。
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    ぱりぱりさん、海外ではGSM対応のSIMカードを持っていれば、好きなケータイを選んで使えます。米国もそうですよね。日本だけはそうはなっておらず、メーカーもカスタマーサポートをキャリアに一任しているために、キャリアが変わると矛盾が出てくるわけです。Docomoと書かれたケータイにauのSIMをさすのもヘンですしね。さて、気難しいスティーブ・ジョブズですが、いったん信用すればとことんですね。ソフトバンクの孫さんとはホント仲がいい。海外とのパートナーシップ作りがうまいのは孫さんならではです。官僚体質のNTT関連会社では難しそうです。
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    まーみさん、おひさしぶりです!もちろん覚えていますとも。おひさしぶりです!さて、ミニコラムが読めるということはPCブラウザーモードでごらんいただいているということですね。パケットがたいへんでしょうがありがとうございます。ケータイは耐久性からすれば5年は持ちます。ただ新製品ラッシュがすさまじいので2年前のものが古く思えちゃうかもしれませんが。長く大事に使うに越したことはありません。
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    riesenmausさん、どのモバイルキャリアのサービスメニューを見ても、ホントわかりづらい料金体系になってますよね。 あんな複雑な値段設定、他の国で見たことがありません。それが許されているのも、ガラパゴスといわれているゆえんですね。気がつけば解約しづらい契約になってしまっているというわけです。
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    もぐさん、とはいえドコモはスゴイ会社です。研究開発は怠らないし、基地局の充実は他の追従を許しません。でも、コストのかかる独自開発だけでなくよい技術を外から買うなどのコストパフォーマンスのほどを見せて欲しいところ。これができているアップル社の事例こそ研究すべきかと思います。かかるコストは結果、利用者からの通話料に影響するわけですからね。イラストについてのお褒めの言葉、うれしいです。

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    なおきんプロフィール:最初の職場はドイツ。社会人歴の半分を国外で過ごし、日本でサラリーマンを経験。今はフリーの立場でさまざまなビジネスにトライ中。ドイツの永久ビザを持ち、合間を見てはひとり旅にふらっとでるスナフキン的性格を持つ。1995年に初めてホームページを立ち上げ、ブログ歴は10年。時間と場所にとらわれないライフスタイルを めざす。