日本は豊かでなくなった
国外に出て帰国する。
そのたびにあらためて日本は豊かで安全な国だなと思う。けれども同時にその豊かさが、だんだんと薄れている。優位だったことが、だんだんそうでなくなってきていることをも実感する。
豊かさが薄れていく。
なにを今さら、と鼻白む向きもあるかもしれない。ここ20年間ずっとそうだったと。そうかもしれないが、ぼくが顕著に思うのは日本を取り巻く東アジアからASEAN諸国、ひいては太平洋諸国の経済発展の凄まじさだ。一部の成金が特権を活かして金持ちになっているのではなく、どんどん中間層の厚みを増しているというリアリティーさだ。
インバウンド観光客が増えているという。訪日外国人は過去40年かかってじわじわと800万人まで増加していたのが、わずか数年で1千万人を超え、さらに3年経たないうちに2千万人超えが確実になっている。先日もカタールのドーハから羽田行きの便を利用したが、日本人以外の乗客が8割を超えていた。数年前は8割が日本人だったのに。「だから日本はすごい、訪れたくなる理由がふんだんにあるからだ」といいたいわけではない。確かに日本が好きで訪れる観光客は多いし、増えているのも事実。そのいっぽうで「海外に行ける余裕が生まれた」人々がここ7〜8年、アジアだけでも数億人誕生したというのが、訪日外国人増加の源泉である。
日本は豊かである、だからそうでない周辺諸国に経済援助する。ODAで橋を作り鉄道を敷く。技術支援を通じて、製品だけでなくジャパンクオリティそのものを輸出する。というのがお約束である。技術や経済は高いところから低いところへ流れる、というわけだ。傾斜があるほどその効果は高い。だがその傾斜がしだいになだらかになっている。日本の優位性がだんだんと薄れ、限定され、あるいは随所で失われつつある。
逆転!出国者と入国者
70年代からずっと、出国する日本人数が訪日外国人を下回ることはなかった。90年代終わりには出国日本人が1600万人に対し、訪日外国人はわずか400万人。1/4でしかない。それが昨年(2015)は出国日本人1800万人に対し、訪日外国人が1900万人と逆転した。いったいなんの追い風か? と世間は騒ぐけれど、これは瞬間風速なんかじゃなく、このまま固定化されるとぼくは思う。2015年はその最初の年で、この先しばらくは海外に出る日本人数より、日本に来る外国人のほうが多いままということである。
意味するところは、日本は外国人から見て安くなったということだ。絶対安価というよりは、むしろ「このクオリティにしてこの安さ!」というコストパフォーマンスの高さである。「清潔・安全・美味」というのは数値化するのは難しいが、可視化されずとも訪れる人がみな口をそろえて言う。発信する。シェアされる。それを見た別の人が「どれどれ」と自分の目で確かめにくる。高評価の発信数。これが訪日外国人を倍増させる要因となっている。
訪日外国人が増えた理由
- アジア諸国の国民生活水準が上がった
- LCCなどにより、移動コストが下がった
- 日本は意外とリーズナブルであること
- 円安トレンドである
- 個人情報発信による影響
少子高齢化を救う外国人観光客
訪日外国人が増える。
そのこと自体はすごくいいことだと思う。人口が減る中、お金を払ってくれる人は逆に増えるのだから。買う人が減れば売上が落ちる。国内消費が下がりGDP成長率がマイナスになる。雇用は減り収入も減る。悪いスパイラルである。こうして減った分を、外国からやってきたひとが日本で使うお金で補う。
単純計算してみる。
- ひとりあたり年間平均消費額 123万円 / 人
- 訪日外国人の平均旅行消費額 13.5万円 / 人
つまり外国人観光客9〜10人で、ひとりぶんが補えるというわけだ。これから日本人は年間20万人〜50万人ずつ、加速度を上げながら減少し、2024年以後は実に100万人以上も減る。日本人による国内消費が減るぶんを、訪日外国人がこれを補うためにはそれぞれ、年間200万人〜500万人、2024年以降は1000万人必要になる計算だ。現実的だろうか?
現実的だとぼくは思う。
加えて「こんなところに外国人観光客が?」という場所も増えてもいる。リピーター客は東京、京都だけでは満足せず、さらに多くの訪問地を希求する。これからますます地方にチャンスが訪れるということだ。オバマ大統領が広島を訪問すれば、次は観光客がさらに同地を訪れるようになる、というふうに。リピーター客は観光地をただ見て回るんじゃなく、体験型の旅を求めてくる。そのことはつまり、日本独自の、伝統的な風習や暮らしが見なおされるきっかけにもなるはずだ。地方創生のキーは、まさにそこにあるとぼくは思う。
旅行者は日本を救う
これからますます外国人目線を養うことが必要になる。そのためにも「外に出て日本を眺める」体験は大いに有効である。そもそもなぜ人は旅行に出かけるか? 当事者になればわかることである。原油安、LCC群雄割拠、個人情報発信、余暇の増幅、シェアエコノミー・・・これらの相乗効果によって、旅行するにはかつてないほど好条件が揃う。
国内ではその他大勢として目立たない自分も、海外においては外国人として目立つ。海外では否が応でも自分は「日本人」であることを意識させられる。とくに単独でいるときには。自分のふるまいは「日本人」のふるまいとして周囲に伝わり、日本人のリアリティとしてそこに収斂されていく。
だから外国にいるとき、自分のふるまいについて思いのほか気遣っている。「旅は恥のかき捨て」ともいうが、そうそう恥をかいてばかりもいられない。むしろ「日本人っていいもんだな」などと良い印象を残したいと思う。そのことが、中国や東南アジアからの旅行者をして、日本に誘引することになることを知っているからだ。
旅先であなたは享受もすれば、与えもする。
訪日外国人がまたそうであるように。
旅行者は日本を救う。
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