そのタマゴ、実は外国産?

日本政府が払う農業助成金はのべ6兆円にもなった。
きっかけは1993年の「ウルグアイ・ラウンド」。貿易自由化を目指し、農作物の輸入禁止を解き、関税を課してもいいから輸入しましょうというアレ(国際交渉)である。それまで「絶対コメは輸入しませんぞ」という姿勢から関税付きで輸入することを認めざるを得なくなった。そこで政府は輸入米には関税率700%もかけた。これなら100円で買えるはずの外国米が800円にもなる。国産米に勝算アリというわけだ。

だのに、それでも農業関係者たちは「国民を飢え死にさせる気か!」と息巻いた。とにかく安い外国米が横で売られては、自分たちの作る米が売れなくなるという理屈である。売れなくなれば農家はいなくなり、食料が自給できなくなると。農業関係者は政治家にとっては大事な票田でもある。さあたいへん。ということでお金をバラまくことにした。「だからこれまでどおり投票よろしくね」というわけだ。税金で集めた6兆円はこうして予算化された。

「なんで農家の人達だけに?」と市井の人々は納得しない。そこで話題にされたのが食物自給率である。悲しむべきことに日本は他の先進国より自給率が低い。だから日本の畜産農家を守らなければ、イザというとき困るのは私たち日本国民なのですよ、と。

「イザ」ってどんな時のことなのか、ぼくたちはよくわからないまま納得させられ、兼業農家たちが次々に建てる家を羨ましがった。ぼくは地方出身者だけど、地方に住んでいるとそのことを実感できるかもしれない。りっぱで大きな家は、たいてい兼業農家であることが多かった。一般サラリーマンとして働くいっぽう、田畑があるからと助成金を頂いている人たちだ。まあ地方にかぎらず、東京の世田谷区もそうなのかもしんないけど。

あなたが今朝たべた「玉子かけごはん」。
その玉子、10個のうち9個は外国産なんです。といわれたらびっくりするだろう。農林水産省が公表している鶏卵の自給率はたったの10%。ありえない!と思う。だいいち、ぼくらが口にする玉子のほとんどは日本の養鶏農家が作ったものじゃないのかと。たまごパックのどこにも「外国産」なんて書いてない。

この10%というのはカロリーベースの食料自給率
実は「鶏の餌」が外国産なのである。日本の鶏が大量の外国産の餌を食べて産んだ玉子だから、9:1で外国産ということらしい。どんだけ高カロリーなんだ、その餌。ちなみに玉子の食料自給率を価格ベースであらわすと96%になるそうである。なんだかこっちのほうがよっぽど実感値である。

玉子の例に漏れずほとんどの場合、カロリーベースで計算するなら食料自給率は低くなる。たとえば、海藻やお茶、こんにゃく芋など低カロリーのものは国産であってもほとんど食料自給率に貢献しない。代わりに食料油や食肉など、高カロリーな食品を輸入するほど食品自給率は下がる、そんなカラクリだ。

スーパーで売られている生鮮野菜などはほとんど国産なのに、なんで食料自給率がたったの35%なのか、あなたも不思議に思ったことはないだろうか。これがその謎の正体です。なんだかとっても詐欺っぽい。

ともかくこんなふうに測る尺度を変えてまで食料自給率を低く見せているのは、農民への過保護を正当化するために違いない。そもそも「助成金」なら成長を助けるためのお金のはず。果たして日本の農業は成長したんだろうか?

減ってるし! 農業就業人口。

「投資対効果あったのか、6兆円?」と、納税者なら問うべきだろう。減ったのはおそらく就業人口の平均年齢が上がったことの自然減だ。とすれば「農業関係者」とあるバラマキ先は他にあるのだろうか?よくわからない。わからないことだらけである。ただ、助成金ほしさに「農地」を専業農家に貸していた所有者が、農家から貸しはがし助成金を自分で受け取っていたというニュースをどこかで読んだ記憶だけである。

おかげで本来農業を育てるために使うはずの助成金は、ただ個人の懐に入っただけである。間接投資家である納税者は虚しさがつのるばかりの物語。

カロリーベースの食料自給率を採用しているのは日本くらいで、他国はほとんどが価格ベース。価格ベースなら日本だって70%もあるのに・・・

国防費4.7兆円、農業助成金6兆円。
この政府が護りたいのは、いったい何かな?

■ ターゲットロックオン

目標があるから、全力疾走できるんだ【ちびきち語録】

7 件のコメント

  • 自給率にそんなからくりがあったなんて
    知りませんでした

    びっくりです

    本当に、この国の政治を司る方々は
    誰を守りたくて
    どこを目指しているのでしょう

  • なおきんさん、お久しぶりです。
    毎日楽しく読ませて頂いてます。
    日々感謝、ありがとうございます。

    高校の授業料は免除という形でばら蒔いておきながら扶養控除をはずして拾い集めています。
    もらった分貯金でもしとかないと損する仕組みです。だのに世の中的には
    子どもがいる家庭だけ不公平、ということになってるようで
    誰が得をしたのかさっぱりわかりません。
    農家さんたちはどうなんでしょう?
    結局ツケを払わされてはいないんでしょうか…
    地球温暖化しかり(最近まったく聞きませんね)、自給率しかり、
    国が発表することには何かしらのカラクリがあるんだなと納得するに至ります。

  • 日本の食料自給率は低い、と思い込んでいたワタクシです…。何でそんな思い込みをしていたか考えてみると、中学生の時に教科書と教師に教わった事を思い出しました。算出方法は教えてもらえなかったが、今まで盲目的に信じてしまっておりました。と、いうか、教師も知らなかったのではないだろうか。
    得た情報は、鵜呑みにせずに精査する事が必要ですね。どうも怠りがちになってしまいますが。

  • こんにちは。

    食料自給率のカラクリは以前の記事で拝見しましたが助成金でこれほど大金が流れているとは・・。

    政治家は支援者と後援会には逆らえないとゆうことでしょうか?

    なるほど!

    国政に関わる政治家達が国民目線で見たら仕事をしていないように見えてコソコソ支援者達の為に偏った政策を実行して納税者が損をしてしまう。

    本当に納税者を愚弄してますね。

    失礼しました。

  • 食料自給率・・・。
    色んなところに色んなからくりがあるのですよね。数字とはマジックです。
    小学生の頃だったと思いますが、ぺティ=クラークの法則というのを学んだ記憶があります。経済が成長するほど、産業も高度化する、とかいうものだったと思います。高度経済成長によって第一次産業から第二次産業、第三次産業への就業率が移動していき、農林水産業の就業人口が減少し、結果食料生産率が減少する可能性があるということを聞いた記憶があります。ただ農地改革、自作農創出特別措置法など、ある意味無理やりですが、1950年代前半くらいまでは農業就業人口等は60%くらいまで上がっていたようです。でも結局農地を転売したりして減少の一途。
    法則により、こんな結果になるとわかっているなら農林水産業の就業人口を上げることをすればいいのに・・・と小学生ながら考えていたことを思い出しました。
    戦後復興の中で、色々と目指すものもあったり、その中で優先順位もあったのでしょうけど、そのやり方を踏襲し、時代に即したことをしない政治家って一体・・・と思ってしまいます。
    だから数字のマジックを使って、都合のいいデータ作成に走っちゃうのでしょうけどね。

    またまた話がそれてしまいましたかね・・・失礼しました。

  • 農協の存在ってのも、そういうのに大きく関係してそうです。
    ゴールデンウィークに帰省して、田植えの準備を手伝いながら、そのこと考えてました。
    農協って、お金があるんだなぁと初めて知ったのは、香港で働いた時だったので皮肉なものです。それまでは、てっきり、みんなの味方ぐらいにしかおもってなかったので。
    まぁ、もちろん、現場の人たちは皆同じ人間だし、仕組みの問題なんだろうとはおもいますが。

  • ねねさん、一番ゲットおめでとさまです!
    数字は正直ですが、使う人の意図によって他人を操作することも容易です。選挙も本来なら素晴らしい制度ですが、同時に利権構造で塗り固められたりもします。瑞穂の国、日本の農業はもっと競争力があるはずなのに、その能力をこそぎ落とす結果になるのは残念ですね。
    ———————-
    tomokoさん、
    利益や効率を優先すれば当然弱者がでる。これを救済するのが国や自治体の役目ですが、転じて行き過ぎれば「利権」に絡め取られることになってしまいます。でも弱者と呼ばれる人たちを救済するには、利益を生む企業や稼ぐ人たちを増やさなければいけない。いまは前者救済をやりすぎて後者の人たちが呼吸困難になっている状態。だから税収が減るから利率を上げて不足分を補うもんだから、より酸素が減り、前者も後者も呼吸困難しているという感じですね。
    ———————-
    楽庵さん、
    農地を持つサラリーマンが、得た助成金を資金にこんどはそこにアパートを建て経営をはじめるというケースもありますね。なぜべらぼうに地価の高い東京のど真ん中に農地があるのか?またそんな場所に建つ高級マンション経営者に農家が多いのか、いろいろ調べるといっぱい出てきます。このあたりはまた別の記事で。
    ———————-
    じさん、
    弱者救済のために使われる助成金は、制度化してみると「なんでこんなムダ遣いを!」ということになりがちですね。TPPについても、農業団体はこれに反対し「条件闘争」を生んで新たな助成金を要求しようとしています。ぼくはTPPには反対ですが、彼らを与したいわけじゃない。むしろTPPという外圧で根こそぎ排除したいと思うほど。つくづくめんどくさいですね。
    ———————-
    mu_ne_2さん、
    博学ですね!ここで「ペティ=クラークの法則」なるものを小学校で学んでいただなんて。たしかにGHQ占領時代に有力者の権力を薄めたいという目的で「農地解放」がありましたが、これは日本を工業国から農業国にして、兵器などを作れないようにする意図があったからだといわれます。もしそうなっていたら戦後高度成長期を迎え、世界第二位の経済大国になることは決してなかったでしょうね。農地を売って工場を建てたり、商業施設にしたのは決して悪いことじゃなかったようにも思います。
    ———————-
    たいさん、
    80年代、ぼくは欧州に住んでいましたが、そこの超高級ホテルのロビーにそぐわない日本からの団体旅行客をよく見かけました。垢抜けない中年男性を中心にした団体、それが農協の人たちでした。仕事できていると聞き、「あれで仕事ならなにが遊びなんだ?」と思っていたものです。いったいどこから出てたんでしょうね、あの贅沢旅行費。

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    なおきんプロフィール:最初の職場はドイツ。社会人歴の半分を国外で過ごし、日本でサラリーマンを経験。今はフリーの立場でさまざまなビジネスにトライ中。ドイツの永久ビザを持ち、合間を見てはひとり旅にふらっとでるスナフキン的性格を持つ。1995年に初めてホームページを立ち上げ、ブログ歴は10年。時間と場所にとらわれないライフスタイルを めざす。