日本マクドナルドのV字回復はホンモノか?

マクドナルドの店に人の列

なぜマクドナルドはお客を失ったか?

やや急ぎ足で渋谷駅へと向かう途中で、ふとマクドナルドに目がとまる。久しくマックを食べていない。巷では数年前からマクドナルドはもうオシマイだという声もあった。度重なる不祥事もあった。悪いうわさはまた別の不祥事を呼びこむものだ。舛添さんの件もそうであるように、川に落ちた犬をこんなにも世間は石を投げる。

つられたのか周囲には「マックも味が落ちたね」と言う人もちらほら。試しに食べてみたが、逆に美味しくなったように感じる。店は混んでおり、カウンターには列ができていた。味というよりは、メニューや安売りプロモーションが、お客の求めているものとズレてきたのが実情である。

日本マクドナルドホールディングスの2016年の第一四半期連結売上損益が、7四半期ぶりに黒字計上されたとの報道があった。地味な報道だったが、なぜかこのことに異様に興味を持った。不採算店130店舗を閉鎖し、既存店の改装を行なったニュースはまだそんなに遠いことじゃない。

2015年度決算は誕生以来最大の赤字で、マイナス345億円。「マックはもうダメかもしれない」と誰もが思った。

2000年代なかば、「100円バーガー」などの安売り戦略を打ち出し、これが当たった。前社長の原田さんの貢献だ。だけどやることがいささか合理的すぎた。低価格でも利益が出るようあらゆるコスト削減が行われた。接客時間も最小限とされた。創業社長の藤田さんとはかなり違った。このときマクドナルドのライバルは吉野家だったのかもしれない。だがこれは見当違いである。はたから見ても明らかだった。マクドナルドは「家族」のはずではなかったか。

合理的経営で失われたのは「マクドナルドらしさ」。ブランドは失墜した。合理的経営が行き過ぎて、似たような会社が日本には意外なほど多い。敗因をアメリカ人社長であるカサノヴァさんにあるように書くメディアも多いが、敗因を遡れば前社長である。むしろカサノヴァさんは長期的な資源を失ったあとの会社を引きつぐことになり、少し気の毒に思う。そして試行錯誤の上、単価の高い期間限定メニューを打ち出していった。自分たちが求めらているのは、いつもと同じ美味しさと、いつもない旬な美味しさという体験であり、家族でニコニコする場所である。

マクドナルドは回復したのか?

2016年に入ると「名前募集バーガー」なんてのも企画された。グランプリを取った名前は忘れたが、この募集に500万以上の応募があったことにすごくおどろいた記憶がある。東京オリンピックのエンブレムデザイン募集への応募数なんて、たったの1万5千である。それだけマックは愛されているんだなあという印象を持った。POSデータだけに頼らないマーケティングが功を奏しているのだ。近く復活するだろう、とも。

マクドナルドのこの度の黒字化でぼくの関心が高いのは、あれだけの店舗数とフランチャイズ数の持つ大企業でも、大掛かりな基本戦略の転換を志して実行しているところである。もちろん報道からは簡易的にしか伝わってこないけど、あれだけの戦略転換にはものすごいエネルギーが必要だったはずだ。抵抗もあったはずである。既得権益と成功体験にしがみついて離さない叩き上げや、天下りの幹部がいるなかで、こんなふうに鮮やかに転換してみせたことに、つくづく感銘する。

比較的小回りのいく中小企業だって、保身に走り、前例踏襲を是としがちだ。売上が減少しているにもかかわらず、管理職の発言ばかりが強い。現場の意見を軽視する会社は日本には死ぬほどある。結果的に収益が伴わなくなり、消えていく。重要な情報はネットやエクセルで判明するとでも思っているのだろうか。名ばかりの社長はサラリーマンで、トップにもかかわらず中間管理職。ゆえに成果を焦り、表面ばかりで根っこを見逃す。任された会社を自己満足の発露に使う向きが多いのも、保身に走る元凶だとぼくは思う。上を伺いながらナタを振るうことなどできず、けっきょく前例踏襲と売上計画をなぞることに終止し、イノベーションが生まれない。日本マクドナルドはそうじゃなかったのだ。あれだけ図体が大きいにも関わらず。

ファーストフードの客は、安さばかりを重視しているわけじゃない。平均的日本人の舌はますます肥え、健康情報は潤沢に溢れている。ましてや平均年齢の向上。舌と人生経験はまた、肥える一方である。「いつものマック」愛好者もいれば「新しい体験」を求める客も多い。ひとりで両方求めたりもするし、情報が多すぎて飽きっぽくもなっている。それで知る人ぞ知る「裏メニュー」なんてのもでた。マクドナルドの旬を活かしたメニュー作りには、このニーズをちゃんと捉えているように思う。たまにしか入らないが、メニューがいつも新しいのだ。

「大きな飛行機ほど長い滑走路が必要で、大きな車輪ほど回り始めるのが遅い。だから企業は・・」的に、老舗や大企業は、遅いことをまるで長所のように定義する。だけどマクドナルドひとつ見てもそんなことを言っている場合じゃないことはわかる。大きいのに素早ければ、小さいところはかなわない。

マクドナルドおじさん

ぼくは別に日本マクドナルドの株主ではないけれど、ひそかに次の決算が楽しみである。ビジネスモデルを勉強するには格好の題材だからだ。映画「スーパーサイズ・ミー」でいうマイナスイメージもあるけれど、月に数回なら食べにも行きたい。世界各国のローカルマクドナルドも、独自性があったりとなかなか楽しめる。

3 件のコメント

  • 相変わらず素晴らしい文章!マーケティング本を読んでいる感じになります。いつも楽しくためになる日記ありがとうございます。香港のマクドは、ここで世界会議も、行われ、世界1安いとかいってたのは、もう20年近く前かなあ。昔は、サクッと飲みものだけでも、気軽に入れたんですけどね。マックカフェができて、コーヒーの美味しくない香港でも割と美味しく飲める場所があちこちにあるのは、ありがたいなあと思います。ケーキもサンドも結構頑張ってるし、メニューは、くふうしてますよね。いま、親子丼バーガーが、すごく気になっています。w なおきんさんも、香港にきたら、ぜひ、冒険メニューを!なおきんさんといつか、こういう
    戦略系の話がマックカフェでできますように。w

    • Sakiちゃん、こんにちは!
      香港マックに親子丼バーガーが!? だとしたらすごいですね。香港に暮らしていた時は、あまり利用してませんでした。なんといってもうるさかったから(笑)でも、マックカフェは高級志向ですよね。だのにリーズナブル。戦略会議にはいい場所です。では次回!

  • 16年度上期の業績が回復したのは中国バブルの崩壊とイギリスのEU脱退騒動で単純に輸入コストが激減したからじゃないですか?
    それでも上期決算の黒字は4700万円止まりらしいですけど

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    なおきんプロフィール:最初の職場はドイツ。社会人歴の半分を国外で過ごし、日本でサラリーマンを経験。今はフリーの立場でさまざまなビジネスにトライ中。ドイツの永久ビザを持ち、合間を見てはひとり旅にふらっとでるスナフキン的性格を持つ。1995年に初めてホームページを立ち上げ、ブログ歴は10年。時間と場所にとらわれないライフスタイルを めざす。