空腹から始まる民主化

民主化運動で、ついに軍が発砲し死者が出てしまった。
チュニジアやエジプトの政権崩壊を見てきた他のアラブ諸国政府は、俺たちもああなっちゃおしまいだと強硬手段に出たのだろう。が、それは逆効果になる可能性が高く、事態はいっそう自分たちの望まない方に向かうはずだ。

日本や欧米の報道を読んでいると「民主革命で市民が解放され自由になることはいいことだ」という論調に終始しているようにみえる。ぼくにはどうしても「世界はより危険にさらされた」気がしてならないのだけど。
不安のひとつはイスラエルの孤立だ。
1970年の石油ショックはなぜ起こったか?アラブの石油産出国がこぞって「イスラエルを支持する国には石油を売らない」と宣言したからだ。このまま「民主化」という名前のイスラム化が進めば、同じことが、いやもっとひどいことが起こるかもしれない。スエズ運河が封鎖されればどうなるか?イスラエルは戦争を起こすかもしれない。実際に戦争は起こらずとも、その噂だけで石油は暴騰する。70年の石油ショック時代はインフレとともに給料もあがった。今度起こるとすれば、収入はそのままに物価だけが高騰するはずだ。モノ離れしているとはいえ、ぼくたち日本人も貧しさを味わうことだろう。

もうひとつは食料問題。
そもそもチェニジアでなぜ暴動が起きたか?なぜそれがエジプトに伝播したか?忘れてはいけない。直接の原因は食料の高騰である。日常食べるパンが高くて買えなくなった。パン屋は小麦粉が高くてパンが作れなくなってしまった。今回の暴動の本質はひとことでいえば「飢餓感」である。食べれなくなるという恐怖が、古来からのDNAに反応して人々をこれほどまでに突き上げたのだ。


▲ 次々に蜂起する民主化デモ日本経済新聞電子版より抜粋】

そもそもなぜ食料問題か?
世界の穀物は、米カーギルなどのわずか数社の食物メジャーが配給している。エジプトもチュニジアもそこから小麦粉を買っている。サウジアラビアアルジェリアも、バングラディシュやインドネシアもそうだし、もちろん日本もだ。石油も食料もつまりは国際商品、彼らが蛇口を閉じたり開いたりするだけで、各国の食料物価が上下する。
食料物価は世界が危険になれば上がる。
食料が上がったから暴動になったのに、暴動になったからさらに食料は上がる。負のスパイラルである。米国食料メジャーは私企業であるから、株主へ配当するためにも稼がねばならない。相場は上下しないと経済が活性しないのだ。
かといって彼らばかりを責めてもいられない。
そもそも世界の食料が足りなくなったのはちゃんと理由がある。
新興国の経済成長である。これまで慎ましく暮らしていた人々も、フトコロがあたたかくなればお腹いっぱい食べたくなる。かつての日本もそうだった。肉食が増え、パンもおかわりできるようになった。そのことをいったい誰が責められる? 加えて人口が激増した。
地球上のカロリー摂取量は増え続けているのだ。
だのに耕地面積は増えていない。むしろ砂漠化温暖化もあって減っている。そして海では増えすぎたクジラが魚を食べ続けている。

食料物価は上昇し続ける。後戻りは、ない。

日本は可処分所得に比べ、食べ物が安い。
おまけに狂ったようにグルメ番組ばかり放映するから「世界は飢えつつある」ことなど、視聴者の頭にかすりもしない。「沈むタイタニック号での晩餐会」ふとそんな光景が目に浮かぶ。日本の食料自給率はテレビで飽食できるほど、高くはない。

いつの日か、ぼくたちは気づくのだろう。
民主化はすばらしい。悪代官は消されるべき存在だったかもしれない。けれども本当の悪代官は、民主化運動そのものを煽っているのだろう。ときどきアメリカ人はどちらの味方なのかわからなくなることがある。ソーシャルメディアは、やはり流行るべくして流行ったのだ。

そして
食べることは、フェイスブックよりも大事だった、と。

17 件のコメント

  • こんばんは。

    なるほど。某国の数少ない天才の仕業とゆうわけですね。納得いく見解です。

    ソーシャルメディアはその役目を果たした後は国家または企業主体の管理下におかれて自由な表現を失ってしまうような状態を発生されないようにしなければなりませんね。

    ウィキリークスはやはりネット社会において絶対価値だったように思います。

    せっかく手に入れた自由を失わないために個人が情報と知識をもち真の民主意識を共有していかなければ!

    現状ではメディアのフィルタリングによって仮想民主主義をだらだら過ごしていて時間とエネルギーと発想を浪費しすぎだと思います。

    持論ですが何もできない善人より実行力をもちこの国の利益を守ってゆくことを実現してゆく悪人では?

    なーんて思います。

    またまた失礼しました。

  • こんばんは。

    なるほど。某国の数少ない天才の仕業とゆうわけですね。納得いく見解です。

    ソーシャルメディアはその役目を果たした後は国家または企業主体の管理下におかれて自由な表現を失ってしまうような状態を発生されないようにしなければなりませんね。

    ウィキリークスはやはりネット社会において絶対価値だったように思います。

    せっかく手に入れた自由を失わないために個人が情報と知識をもち真の民主意識を共有していかなければ!

    現状ではメディアのフィルタリングによって仮想民主主義をだらだら過ごしていて時間とエネルギーと発想を浪費しすぎだと思います。

    持論ですが何もできない善人より実行力をもちこの国の利益を守ってゆくことを実現してゆく悪人では?

    なーんて思います。

    またまた失礼しました。

  • イスラエル絡みでアメリカがどうアラブ諸国と交渉していくか。状況が複雑ですけど、孤立させるのは避けてほしい。。なおきんさん、やっぱりアメリカは世界の中心だと、今回思い知らされました。

    それに、各国の内政事情で不満をつのらせた青年層が、フェイスブック、ツイッターで扇動している人間が誰だか分からないまま、怒涛の「民主化」要求の波に飲み込まれていっているのが恐ろしいですね。一様に「民主化」っていうけど、各国それぞれに違う国内の背景が語られていないのも相当おかしい。

  • イスラエル絡みでアメリカがどうアラブ諸国と交渉していくか。状況が複雑ですけど、孤立させるのは避けてほしい。。なおきんさん、やっぱりアメリカは世界の中心だと、今回思い知らされました。

    それに、各国の内政事情で不満をつのらせた青年層が、フェイスブック、ツイッターで扇動している人間が誰だか分からないまま、怒涛の「民主化」要求の波に飲み込まれていっているのが恐ろしいですね。一様に「民主化」っていうけど、各国それぞれに違う国内の背景が語られていないのも相当おかしい。

  • こんばんは。ご無沙汰しております。
    非常に的を得た良い記事と思いました。
    フェイスブック、ツィッターは面白いように民衆誘導に使われてますね。

  • こんばんは。ご無沙汰しております。
    非常に的を得た良い記事と思いました。
    フェイスブック、ツィッターは面白いように民衆誘導に使われてますね。

  • チュニジアから始まった民主化の動きは他の中東諸国に広がりましたね。なおきんさんの予想的中です。
    更に中国にまで伝播しそうな動きにもなってきました。

  • チュニジアから始まった民主化の動きは他の中東諸国に広がりましたね。なおきんさんの予想的中です。
    更に中国にまで伝播しそうな動きにもなってきました。

  • 日本在住でチュニジアの方と結婚した知人は、心の飢餓に悩まされています。
    負のスパイラルは別な形でも続いていくのですね・・

  • 日本在住でチュニジアの方と結婚した知人は、心の飢餓に悩まされています。
    負のスパイラルは別な形でも続いていくのですね・・

  • いい歳して、知ろうとしなかったことや見えてなかったことを、こちらに伺って知るきっかけをいただいています。
    今起きてることは、海の向こうのことじゃないんですね。でも、眺めているしかないのでしょうか。
    なんか。頭悪いコメですみません。

  • いい歳して、知ろうとしなかったことや見えてなかったことを、こちらに伺って知るきっかけをいただいています。
    今起きてることは、海の向こうのことじゃないんですね。でも、眺めているしかないのでしょうか。
    なんか。頭悪いコメですみません。

  • き・・記事に関係ない事書いたら怒られますか・・・?

    ポッドキャスト登録をしました(小声で)。
    これからはiPodに入れてなおきんさんと皆さんの「やりとり」を聞かせていただきます!
    たくさん更新してくれたらうちのiPodも喜びます。

  • き・・記事に関係ない事書いたら怒られますか・・・?

    ポッドキャスト登録をしました(小声で)。
    これからはiPodに入れてなおきんさんと皆さんの「やりとり」を聞かせていただきます!
    たくさん更新してくれたらうちのiPodも喜びます。

  • じさん、一番ゲットおめでとうございます!
    一連のアラブ諸国革命をみていると、ちょうど1989年の東欧革命を思い出させるものがありますね。あのとき暗躍したのはCIAなどのスパイ。そりゃもう膨大な経費を使って諜報活動をしたり民衆の扇動工作をしていました。それがいまではネットでチョチョイのちょいです。ぼくたちはいつの間にか、もっとも管理されやすい大衆になっていたのかもしれません。「何もできない善人」、なるほどですね。
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    ぱりぱりさん、そうですね。アメリカはいまでも世界の中心でいようとします。同時に早くこの荷をおろしたいと考えているふしもあります。アメリカが長期にわたっておこなってきた親米ムバラク政権への援助金は年間1000億円ともそれ以上とも聞きます。このたびさっさと見捨てたのは、「援助している場合じゃない」台所事情だったのかもしんないし、中東はもはや用済みと考えたのかもしれません。となると次はサウジアラビアですね。外れてほしい予測が次々と現実のものになって、割とショックです。
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    isaogermanyさん、ごぶさたですね!お元気でしたか。コメントでいただいたとおり、ソーシャルネットワークという新しいインフラに、正直ぼくは戸惑いを感じています。これ、大衆誘導装置としてもっともコストパフォーマンスの高いツールですからね。やれやれ。
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    ジョジさん、「当たってほしくない予測ほど当たる」というのはマーフィーの法則、じゃなくていま考えたただの戯言。リビアはちょっと毛色が違うけど、次はサウジかなあ。中国はどさくさにまぎれて民主化が伝播しているようだけど、あれは別の意志があるようみみえるね。逆に共産党の力を強めることになるんじゃないかな、と。
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    岐山達雨さん、初コメントありがとさまです!
    そうでしたか。ご家族が混乱のチュニジアに残っていると気が気じゃないでしょうね。でもバーレーンやリビアの流血革命に比べると、ジャスミン革命はまだ穏やかだった気がします。でも現在の混乱は暫く続くでしょうし、イスラム革命が密かに進行しているかもしれませんね。
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    じゅん爺さん、<「会社にコメと野菜を作らせてはいけないのだよ。それは「個人」が作るものなのさ。」ははは、たしかにそうなのかもしれませんね。自分の胃袋まで誰かに遠隔操作されちゃまずいですよね。
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    seaglassさん、初コメントありがとさまです!
    いやあ、ぼくもよく知らないからあちこち調べたり聞いたり考えたりしています。今世界のあちこちで起こっているのは、決して他人ごとじゃないはず。物価高騰はすぐ目の前の問題だし、物価が高騰すると不況感はさらに高まります。でもいっぽうで、なんでもこい!というたくましさもありですね。
    ——————————-
    HALさん、ああ、Podcast登録ありがとうございます。「メルポ」ももうすぐiTunesでダウンロード出来るようになるはずです。「イラ写音声版」は一足先に登録されているので、Podcastで「東京イラスト写真日誌」と検索してみてくださいね。

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    ABOUTこの記事をかいた人

    なおきんプロフィール:最初の職場はドイツ。社会人歴の半分を国外で過ごし、日本でサラリーマンを経験。今はフリーの立場でさまざまなビジネスにトライ中。ドイツの永久ビザを持ち、合間を見てはひとり旅にふらっとでるスナフキン的性格を持つ。1995年に初めてホームページを立ち上げ、ブログ歴は10年。時間と場所にとらわれないライフスタイルを めざす。